映画いのちスケッチ公開記念スペシャルインタビュー・瀬木直貴監督

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こんにちは、ライターの幸森です。

福岡県では11月8日、そして全国でも15日から公開となった映画いのちスケッチは、福岡県大牟田市に実在する動物園を舞台とした命と向き合えるヒューマンドラマ。

大牟田市の映画館では公開初日から3日間での動員数(3,303人)が歴代3位を記録し、その後も日を追うごとに動員数を伸ばし続けるなど大きな話題を呼んでいます。

今回は作品内の多くのシーンが撮影された大牟田市動物園で、監督の瀬木直貴さんにお話を伺いました。

いのちスケッチの誕生秘話や、作品づくりで監督が大切にされた想いなど、盛り沢山でお届けします。

監督への質問を事前募集をした際に最も多く寄せられた“佐藤寛太さんを主役に選んだ理由”もお聞かせ頂きましたよ!

聞き手:幸森彩香

撮影:吉田哲也

大牟田で映画を撮ると決めるまで

映画監督 瀬木直貴

1963年、三重県出身。立命館大学を卒業後、プロダクション勤務を経てフリーへ。
現在、映像制作会社ソウルボート株式会社代表取締役。
映画監督/TV・CFディレクター/エッセイ・コラムの執筆/環境・人権に関する講演活動、各地のまちづくりアドバイザーも務め、活躍の場は多岐にわたる。
自然や地域コミュニティーをモチーフにした作品に定評がある。
みえの国観光大使・四日市市観光大使・明和町観光大使・福島県しゃくなげ大使・宇佐市観光交流特別大使。2008年市制111周年記念・四日市市民文化奨励賞受賞。

−瀬木監督と大牟田とのご縁はいつからだったんですか?

大牟田に足を踏み入れたのは実は今回が初めてではなくて、17年前に福岡で撮影していた時に案内してもらったことがありました。煙突や自然のある景色が故郷・三重県に瓜二つで親しみを感じたことを、今も鮮明に覚えています。

2度目に訪れたのは、2012年に公開した映画「ラーメン侍」の撮影時です。火事のシーンが登場するんですが、その際に大牟田市の市営住宅で撮影させてもらいました。

3度目のきっかけになったのが、若くして旅立たれた大牟田出身の漫画家・三隅健さんだったんですね。生前交流はなかったんですがたまたま手にとった三隅さんの作品“ムルチ”がとても大好きで。作品に出てくる煙突のある風景が故郷に重なることもあり、漫画本をとても大切にしていました。

「ラーメン侍」の公開キャンペーンで久留米を訪れた時に、ある女性を「大牟田にある“やきとり二番”のお母さんで、息子さんは漫画家だったんですよ。」と紹介されたんです。“漫画家”と聞いた瞬間に僕が三隅健さんの名前を出すと、お母さんは涙ぐんで喜ばれて。ご家族にとっていかに大きな存在であるかを知りました。

まだ当時は大牟田で映画を撮る話なんて一切ありませんでしたが、もしその機会があれば漫画化志望の青年を主人公にしようと、その頃から決めていたんです。

−映画の話がきたのは今から2年ほど前と伺いました。舞台を動物園にしたのは何故ですか?

話をもらってから10回以上大牟田を訪れてリサーチを重ねていたのですが、地元の皆さんと交流する中で「大牟田市の唯一無二の魅力は何か」と尋ねても答えられる人がいなかったんですね。そんなわけないだろうと思いつつもリサーチを重ねていく中で、過去の様々な事件による印象や高齢化率など、たくさんの課題を抱えるまちであることが徐々にわかっていきました。

僕の映画づくりはまちの魅力を掘り出すことはもちろんですが、抱える課題に映画でどのような処方箋を出すかを重要視していて。そこで見つけたデータが、大牟田市は人口減少が進む一方で全国と比較して高い出生率を誇っていることでした。つまり相対的に子どもが生まれているものの、子育ての過程で流出している状況がある。それならばファミリー世帯を大牟田に繋ぎ止めるものが必要だなと考えたんです。

それで目をつけたのが“動物園”でした。子どもの頃何度も訪れて、親になったら子どもを連れてまた訪れて、孫が生まれたらまた訪れて……動物園はリピーターを生める場所ですからね。しかも大牟田市動物園は動物たちが暮らしやすい環境を作っていたり、無麻酔採血で動物たちの健康管理をしていたり、園全体で動物福祉に特化した取り組みを行っています。一見すると地味に見えますが、これらは世界に誇れる取り組みです。

映画を撮るって覚悟がいるんですよ。人生の貴重な数年をそこに費やさないといけないし、失敗すればその責任は監督が全て負わなければなりませんから。その覚悟を決められるほどの魅力が、大牟田市動物園にはあった。だから舞台に選びました。

リアルに描かれた人・動物・風景

−今回読者さんから質問を募集したところ、キャスティングに関する質問がいくつか寄せられました。主役の田中亮太役に佐藤寛太さんを選んだ理由は?

まず一つは、笑顔が印象的だったことが理由ですね。それに彼はこれまでナイーブな役を演じることが多かったので、人付き合いを得意としない亮太のイメージに合うと思って。もう一つ、福岡県出身で言葉のハンディキャップがないことも大きな理由でした。芝居の自由度が増しますからね。

−実際に本作では多くの大牟田弁が使用されていましたね。リアルなイントネーションが良かったとの感想も聞かれています。

本作には大牟田市出身の女優・林田麻里さんも出演しているので、彼女を中心に方言指導を入れながら撮影しました。実は先日映画をご覧になった方から「◯◯のシーンは標準語で喋っていたけれど、大牟田弁がよかった。」と感想を頂いたんですが、これには緻密な計算が仕込まれていまして。

亮太は東京で数年を過ごして地元に帰ってきたわけですから、当然東京では標準語を喋っていたはずなんですね。そうすると、地元に戻ってきたからってすぐには方言全開にならないでしょう?人との関わりや時間の流れの中で緩やかに地元に馴染んでいく亮太の姿を、そうした方言の出方からも感じて頂けるかと。

ちなみに園長役の武田鉄矢さんは福岡市出身の設定なので、大牟田弁は喋りません。亮太の名字は大牟田に最も多い“田中”です。映画には描かれませんが、映画づくりはそうした細部までこだわっているんですよ。

−方言以外にもリアルを感じさせるシーンが非常に多く登場しましたね。やはりそこはかなり意識されたのでしょうか。

まず、動物園関係者が観ても嘘がない作品にしたかったので、大牟田市動物園の全飼育員・全獣医さんと意見交換をしたり、僕自身が動物園で何度も飼育員体験をさせて頂いたりしたんです。キリン舎を掃除するシーンや動物たちの食事を用意するシーンなどは、その体験が丸々活かされています。

人の心の動きも極力リアルに描きたくて。例えば亮太については、大きく成長を遂げたと言うよりも「ほんの少し前へ進めたのかな?」と感じて頂けたかと思います。実際人の成長って1日2日でどうにかなるものじゃないわけで。長い時間をかけて少しずつ変わっていくじゃないですか。そうやってリアルに描いた作品だからこそ、ご覧になった方は誰かしら登場人物に自分を重ね合わせられると思いますよ。

動物たちについても自然な姿を映すよう意識していたので、決して演技させるようなことはしていません。飼育員さんたちが動物たちにストレスをかけないように工夫されているのに、映画の撮影でストレスをかけることがあってはいけませんからね。動物たちは大きなものや音に敏感なので、通常とは異なる撮影機材を使用したり、「この子、今日は無理かな?」と感じればすぐに飼育員さんと相談して、日程を変更したりしました。

−大牟田の美しい景色も好評だったのでは?

新栄町辺りに壁面に大きなイラストが描かれている通りがありますよね。その前を亮太が通るシーンがあるんですが、ご覧になった方から「ずっと汚くて嫌だと思っていた景色だったのに、映画を観て“これでいいんだ”と思いました。」って感想を寄せて頂いて。それはすごく嬉しかったですね。

本作には様々な大牟田の景色が登場しますが、僕は“美しい自然”を映したつもりはありません。“人の暮らし”が感じられる景色を映しているんです。最後に登場する桜のシーンも好評ですが、桜のアップでは終わらないでしょう?その先にある人の暮らしまで映したかったから、あのラストなんです。

▼映画に登場する堂面川の桜(2019年春編集部撮影)

瀬木監督が地域に託す想い

−本作を観て、監督から大牟田にバトンが渡されたように感じました。大牟田にとってはこれからが大切なのではと思うのですが。

映画は最も多くの人が関われる芸術作品なんです。今回で言えば地域キャストのオーディションには1000人を超える方が参加してくれて、そのうち約200人は全国各地から集まりました。実際に撮影が始まると多くのエキストラさんが協力してくれましたし、ボランティアで俳優陣の送迎や炊き出しの手配などをしてくれた方も相当数いて。本作がなければ出会わなかった人たちがたくさん繋がったはずです。この人と人を繋ぐ感覚は、まちづくりに近いものがあるかと。

地域活性化には様々な形がありますよね。前作の“恋のしずく”では地域にかなりの経済効果が生まれましたが、映画にとって経済効果はあくまでも副産物です。じゃあ映画にできる地域活性化は何かと問われたら、間違いなくできるのは“心の活性化”だと思っています。

他力本願のように思われるかもしれませんけど、映画が一過性のものであることは逃れられない事実なので。映画を機に繋がった人たちが地域を盛り上げて、また次へと繋いでくれることに期待する部分はあります。

▼地元ボランティアスタッフの方々と

映画制作に携わった地元のスタッフは

監督のすぐ側で映画制作を支えていた地元のボランティアスタッフは、監督の想いをどう受け止めていたのでしょうか。

制作が決定する前から監督と交流を重ねていた、大牟田商工会議所青年部の真次伸彦さんと小川雄一さんにも少しお話を伺いました。

真次伸彦

2019年度大牟田商工会議所青年部 直前会長

株式会社まつぐ 代表取締役社長

−映画で印象に残ったシーンはありますか?

真次さん:

送迎などでずっと撮影に付き添っていたので、どのシーンにも思い入れがありますよね。あぁここはこんな風に仕上がったんだなぁとか、観ていて感慨深くなります。

なんと言ってもやはり、大牟田の色んな魅力や美しさをあの大きなスクリーンに映し出して頂いたことが何より嬉しかったです。自分たちだけでは気付けない魅力がまだまだあったんだなぁと思いますよね。

小川雄一

2019年度大牟田商工会議所青年部 地域活性化委員長

good luck 代表

−映画をご覧になった大牟田の皆さんに、どんなことを感じて欲しいですか?

小川さん:

まちの魅力を再認識してもっと大牟田を好きになって欲しいし、子どもたちが誇りに思ってくれたらなと。自分のまちが映画になるなんて、人生に1度あるかないかの出来事じゃないですか。僕自身、公開された今でもまだ信じられないくらいなんですけど(笑)。でも本当に映画になったし、作品としてずっと残っていく。それって本当に誇らしいことですよね。

実は映画の中で亮太が描いた動物園の漫画も、これから実際に制作されて発売する予定があります。大牟田市動物園の取り組みも、またそこからさらに広がっていったら嬉しいですね。

取材を終えて

お話を伺っていて一番驚いたのは、監督がそこいらの大牟田市民よりもずっと大牟田にお詳しいことでした。このまちの過去も、今も、そこにデータとして出されている数値も、監督の頭の中には全てが刻まれているのでしょう。

私はそこに監督の“覚悟”があるように感じて、自分自身どれほど大牟田と向き合えていたのかと改めて自分に問いたくなりました。

皆さんは映画を観てどんなことを感じましたか?

監督からこのまちに出された処方箋を、まちのみんなで未来に繋いでいけるといいですよね。

作品情報

映画【いのちスケッチ】

世界も注目する、小さな町の小さな動物園を舞台にした感動の物語。

出演:佐藤寛太、藤本泉、芹澤興人、須藤蓮、林田麻里、前野朋哉、塩野瑛久、大原梓、今田美桜(友情出演)、風間トオル、高杢禎彦、浅田美代子、渡辺美佐子、武田鉄矢

監督:瀬木直貴

脚本:作道雄

音楽:高山英丈

主題歌:「瞳の中のあなた」Insheart

配給:ブロードメディア・スタジオ

劇場情報はこちら

公式サイトでは動物園関係者や著名人から寄せられたコメントも公開中

いのちスケッチ公式サイト

カメラマン吉田哲也さんのInstagramはこちら

 
 
 
 
 
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幸森 彩香
1985年宮崎県出身。地域の魅力を可視化するフリーライターとして活動中。言葉と肉と甘いものをこよなく愛する肉食系文学女子。produced by OmutaTwinkles
大牟田ひとめぐりとは?
このサイトについて:大牟田ひとめぐりとは?
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